リノベ判断の教科書
物件選び

中古マンションの探し方|良い物件を逃さず、消耗しないための立ち回り

中古マンション探しは、情報が多いわりに何を信じればいいか分かりにくく、消耗しやすい作業です。「良い物件はすぐ売れる」と言われれば焦りますし、掲載されている物件に問い合わせて「もう決まりました」と言われると、次から動きが鈍くなります。

この記事では、内覧より前の「探す段階」に絞って、良い物件を逃さず、かつ消耗しないための立ち回りを整理します。内覧で何を確認するかは別記事で扱っているので、ここでは触れません。

はじめ方

中古マンション購入〜リノベ完成までの流れ【保存版】|全体像・期間・つまづきポイントを実体験で解説

中古マンションを購入してリノベーションするまでの流れを、期間の目安とつまずきやすいポイントとあわせて実体験をもとに解説します。

結論

  • 探索フェーズ(物件を探して問い合わせる段階)は、金銭的な撤退コストがほぼゼロ
  • 撤退コストが跳ね上がるのは「売買契約」から。買付申込を入れた段階までは実質的に戻れる
  • だから探索フェーズで最適化すべきは「失敗しないこと」ではなく「消耗しないこと」
  • 消耗を減らす具体策は、判断の順序を固定すること。エリアの相場→成約価格→その棟の値付け傾向、の順に絞り込んでから問い合わせる
  • 「良い物件はすぐ売れる」は市場平均で見ると言い過ぎ。条件が良く、価格が適正な物件だけが速く動く

背景・前提整理

ポータルサイトは広告媒体、レインズは業者間のデータベース

中古マンションを探すとき、多くの人はSUUMOやアットホームなどのポータルサイトから始めます。ですが、ポータルサイトに載っている情報がすべてではありません。

不動産業界には「レインズ(REINS)」という物件情報交換システムがあります。宅地建物取引業法に基づいて国土交通大臣が指定した「指定流通機構」が運営し、売買を仲介する業者同士がここで物件情報をやり取りします。全国に東日本・中部圏・近畿圏・西日本の4法人があります。

一般の買い手は、レインズに直接アクセスできません。 見えているのは、あくまで業者がポータルサイトに広告として掲載した範囲です。

つまり、情報の流れは次の二段構えになっています。

  • レインズ登録:業者間で共有される
  • ポータル掲載:物件を預かっている業者(元付業者)が広告掲載を許可した物件のみ

売主が「売却することを周囲に知られたくない」といった理由で広告掲載を制限するケースもあり、レインズにはあってもポータルには出ていない物件が構造的に存在します。とはいえ、早く広く売りたい売主がほとんどのため、非公開はあくまで例外です。「ポータルは信用できない」という話ではなく、そういう構造だと知っておく程度で十分です。

レインズに登録された物件のうち、業者が広告掲載を許可した一部だけがポータルサイトに載る構造を示した図。買い手が見ているのは全体の一部でしかない。

掲載されていても、もう決まっていることがある

もう一つ知っておきたいのが、ポータル掲載と実際の取引可能性がずれることがある、という点です。

不動産公正取引協議会連合会は、インターネット上の「おとり広告」を次の3類型に整理しています。

  • 新規掲載時点では取引可能だったが、契約済みとなった物件を削除せず更新を繰り返していたもの
  • 当初から契約済みだった物件を新規掲載していたもの
  • 架空の物件や契約済み物件をもとに、価格や間取りを改ざんして掲載したもの

これらは業界団体が実際に措置の対象としている問題で、「契約済みで取引できないにもかかわらず1か月以上継続して広告していた」という事例も公表されています。

これは「不動産業者が不誠実」という話として受け取らないでください。ポータルの掲載情報には、構造的にタイムラグと消し忘れが混ざります。だから、気になる物件を見つけたら在庫確認の問い合わせを入れることは、遠慮ではなく前提の動作です。問い合わせて「もう決まりました」と言われるのは、失礼でも徒労でもなく、正常な結果のひとつです。

2025年1月から、断る側にも説明義務が生まれた

もう一つ、2025年1月に始まった制度変更も押さえておくと安心です。

宅地建物取引業法施行規則の改正により、2025年1月1日から制度が変わりました。専属専任・専任媒介契約を結んだ売却物件について、宅建業者にレインズへの取引状況の登録が義務付けられています。登録されるステータスは3種類です。

ステータス 紹介の可否
公開中 原則として必ず紹介される
書面による購入申込みあり 紹介を行わないことが認められる
売主都合で一時紹介停止中 紹介を行わないことが認められる

重要なのは、「公開中」のステータスであれば、業者は原則として物件詳細の回答や現地案内を断れないという点です。「商談中なので受け付けられない」という口頭の断り方だけでは、正当な理由になりません。断る場合、業者側にはその事由や購入申込みの順位を説明する義務があります。

なお、いわゆる「囲い込み」(売主側の業者が両手仲介を狙って他の業者への紹介を拒む慣行)がどの程度の頻度で起きているかについて、公的な統計は見つかりませんでした。頻度を断定することはできませんが、上記のように「断る側に説明義務がある」という制度は存在します。内見を断られて不審に感じたら、理由を聞くことができる、という理解で十分です。

探し方の設計:粒度を絞っていく

「良い物件はすぐ売れる」は本当か

物件探しでよく聞く「良い物件はすぐ売れるから即決するべき」という話には、データの裏付けがあります。ただし、そのまま鵜呑みにすると判断を誤ります。

東日本不動産流通機構の「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」によると、中古マンションが売り出されてから成約するまでの平均日数は次の通りです。

中古マンションの登録から成約までの平均日数(首都圏)

2015年65.5日
2016年69.3日
2017年74.7日
2018年78.8日
2019年81.7日
2020年88.3日
2021年74.7日
2022年71.4日
2023年80.1日
2024年85.3日
2025年82.5日

出典:東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」をもとに作成

直近10年間、平均は一貫して2ヶ月〜3ヶ月程度で推移しており、「数日〜数週間」の水準になったことは一度もありません。

ただし、この数字は平均であって分布ではありません。相場より割高で長期間売れ残る物件と、条件が良く即決される物件の両方を含んだ数字です。したがって「平均2.7ヶ月だからゆっくりでいい」とも言えませんし、「良い物件はすぐ売れるから即決すべき」も市場全体の説明としては言い過ぎです。

正しく言うなら、市場全体はゆっくり動いているが、条件が良く価格が適正な物件だけが速く動きます。 急ぐべきかどうかは物件によって違い、その判別には価格の妥当性を見る必要があります。だからこそ、次に説明する相場確認が先に必要になります。

相場確認ツールの使い分け

「この物件、高いのか安いのか」を判断するために、相場を確認できる公的サービス・民間サービスがいくつかあります。それぞれ答えられる問いが違うため、性質を理解した上で使い分ける必要があります。

サービス 運営 データの性質 費用
不動産情報ライブラリ 国土交通省 取引価格アンケート+レインズ由来の成約価格情報 無料・登録不要
REINS Market Information(RMI) 指定流通機構(レインズ) 成約価格(個別取引を特定できないよう加工済み) 無料・登録不要
ウチノカチ ウチノカチ株式会社 実取引価格とレインズ物件データをもとにした推計相場 無料
マンションレビュー 株式会社ワンノブアカインド 棟単位の売り出し価格履歴・口コミ・AI査定 一部機能は無料会員登録が必要

※不動産情報ライブラリは、2024年3月末で終了した旧「土地総合情報システム」の後継サービスです。

このうち、ウチノカチには実用上とても重要な注記があります。 ウチノカチが示す相場は成約価格をもとにした推計のため、不動産会社のサイトに載っている売出価格の相場より、5〜10%程度低く出ることが多いとされています。これは、実際の成約価格が売出価格よりも、首都圏ではおよそ6%、近畿・中部圏ではおよそ8%、その他の地域ではおよそ10%低い傾向があることに起因します。

つまり、「ウチノカチの相場より高い=割高」ではありません。 売出価格と成約価格という、そもそも別の性質の数字を比べているだけです。逆に言えば、この6〜10%という差が、値引き交渉の一般的な水準感の目安にもなります。

マンションレビューについては、価格履歴が成約価格か売り出し価格かの公式な説明が確認できなかったため、この記事では「過去に売り出された価格の履歴」として扱います。ウチノカチの成約ベースの推計とは性質が異なる数字なので、単純に並べて比較しないよう注意してください。

絞り込みの流れ

これらのツールは、エリア→棟→部屋という順に粒度を絞っていく道具として使うと機能します。

エリア全体の街区から一つの棟へ、棟から一つの間取りへとズームインしていく図。粒度を絞り込む流れを示している。

  1. ポータルサイトで候補を見つける

    SUUMOやアットホームなどで、条件に近い物件を探します。この時点では「気になる物件をリストアップする」くらいの気持ちで構いません。

  2. エリアの相場感をつかむ

    ウチノカチや不動産情報ライブラリで、そのエリアの水準を確認します。個別物件が出てから調べ始めるのではなく、探し始める前に一度作っておくと、後の判断が速くなります。

  3. 実際に成約した価格帯を確認する

    REINS Market Informationで、同じエリア・近い築年数・近い面積の成約価格帯を確認します。ウチノカチの推計相場と、マンションレビューの売り出し履歴をつなぐ橋渡しの工程です。

  4. その棟固有の値付け傾向を見る

    マンションレビューで、その物件が属する棟の過去の売り出し価格履歴を確認します。エリア相場では見えない、棟ごとの値付けの癖が分かります。

  5. 売出価格が「説明のつく水準」かを判断し、問い合わせる

    ここまでの情報から、売出価格が妥当な範囲かを判断します。妥当と判断できたら、在庫確認を兼ねて早めに問い合わせましょう。

「ツールを紹介する記事」にはしたくないので繰り返しますが、大事なのは各ツールの機能そのものより、それぞれが答えられる問いが違うという点です。エリアの水準、実際の成約価格帯、棟固有の傾向は、どれも別の問いに対する答えです。

問い合わせ〜買付申込の立ち回り

問い合わせ・買付申込・売買契約の3段階を撤退コストの階段状グラフで示した図。売買契約で撤退コストが大きく跳ね上がり、それより手前は撤回できることを表している。

順位は「書面による申込み」で確定する

気になる物件が見つかり、実際に交渉に進む段階で知っておきたいのが、申込みの順位の決まり方です。

レインズの利用規程では、業者は購入等の申込みを受けた順に交渉を開始しなければならないとされています。ただし、この「順位」が確定するのは、購入意思・署名・日付が記載された書面(メール・インターネット・FAXによる申込みを含む)を受領した時点です。

つまり、口頭で「検討します」と伝えているだけの状態には、順位がありません。「他に検討している人がいるかもしれない」と焦る前に、まず自分が書面での申込みを済ませているかを確認することが重要です。

なお、同時に複数の書面申込みが入った場合、誰と交渉するかは売主側が選べることになっています。また、購入申込みを受けたあとも、売主の意向次第で2番手以降の申込みを受け付けることは可能です。

買付申込は「予約」であって「契約」ではない

探索フェーズの中で、読者の行動を最も変えられるのがこの点です。

買付申込を入れた後で気が変わっても、撤回できます。しかも、金銭的な損失は法律上防がれています。宅地建物取引業法では、契約の申込みの撤回にあたって、業者が既に受領した預り金(申込金・申込証拠金など、名目を問わない)の返還を拒むことを禁止しています。最終的に返還したとしても、拒んだ時点で違反になる仕組みです。

買付申込は、売買契約とは撤退コストがまったく違います。 売買契約(手付金の授受)に進むと、解除には手付の放棄などの実質的なコストが発生し、ここから先が「本番」になります。逆に言えば、買付申込までは戻れる区間です。

探索フェーズを三軸で見る

ここまでの内容を、このブログの判断軸(確率・損失・撤退可能性)で整理すると、探索フェーズの構造が見えてきます。

事象確率損失撤退可能性
問い合わせたら既に売れていた高い(構造的に起こりうる)数分〜数十分の時間のみ
内見を断られる中(「公開中」なら原則断れない)時間と気力
迷っている間に他の人の書面申込みが先に入る物件の価格妥当性によるその物件を失う(代替は市場に存在)
買付申込を入れたが気が変わった原則ゼロ(預り金の返還拒否は違法)高い(撤回できる)
売買契約後に解除したくなった低い手付放棄など実質的なコストが発生低い(ここから先が本番)

この表から言えるのは、探索フェーズの損失は、ほとんどが「時間」と「気力」だということです。 金銭的な損失は制度によってかなりの部分が防がれています。

だとすれば、探索フェーズで最適化すべきは「失敗しないこと」ではなく「消耗しないこと」です。消耗を減らす具体策は、判断の順序をあらかじめ固定しておくこと。エリアの相場を先に押さえておけば、個別の物件が出てきたときの判断は数分で済みます。

注意点・失敗しやすいポイント

平均日数を「みんなの余裕」と勘違いする

登録から成約まで平均82.5日というデータは、市場全体の平均であって、条件の良い物件の話ではありません。狙っている物件が適正価格に見えるなら、平均日数を理由に動きを遅らせると、機会を逃しかねません。

性質の違う数字を並べて即断する

ウチノカチの推計相場(成約ベース)と、マンションレビューの売り出し履歴(売出ベース)は、そもそも比べている数字の性質が違います。この2つを並べて「高い」「安い」と即断せず、REINS Market Informationの成約価格帯を間に挟んで確認するのが安全です。

複数社への問い合わせと、複数社経由の申込みを混同する

複数の仲介会社に問い合わせること自体を制限する明文のルールは確認できませんでした。ただし、同一物件について複数社経由で買付申込みを入れると、元付業者側で順位付けや売主への報告が混乱します。問い合わせは複数社にしても構いませんが、申込みは1社に絞るのが実務上の前提です。

相場確認の丁寧さと、初動の速さは両立しない場面がある

相場確認に時間をかけるほど、良い物件への初動は遅れます。この記事で紹介した「エリアの相場感を先に作っておく」という進め方は、その両立を狙ったものです。それでも、物件探しを始める前の準備には一定の工数がかかります。

準備をかけずに動き始める方法もあります。最初の数件を「相場観をつかむための授業料」と割り切って進めるやり方です。探索フェーズの撤退コストはほぼゼロなので、これも十分に合理的な選択です。

まとめ

物件探しが消耗しやすいのは、「今すぐ決めないと逃す」という焦りと、「じっくり選ばないと失敗する」という慎重さが、常にせめぎ合っているように感じられるからです。

ですが実際には、探索フェーズは金銭的な撤退コストがほぼゼロの区間で、撤退コストが跳ね上がるのは売買契約からです。この境界線を知っているかどうかで、探す段階での心理的な重さはかなり変わります。

気になる物件が「暮らせそうか」を確かめる段階に進んだら、次は内覧です。

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