リノベ判断の教科書
考え方

賃貸ではなくマンションを購入した理由|資産性と撤退可能性で考える

なぜ賃貸ではなくマンションを購入したのか。

もともと私は、趣味のキャンプ用品がどんどん増えて置き場に困り、引っ越しを決意しました。当初は賃貸を探していましたが、理想の間取り・内装・家賃・立地が揃った物件がなかなか見つかりませんでした。

そのとき自分を納得させていたのが、「家賃には大家の利益が上乗せされている」「持ち家は資産になる」といった、よく聞く説明でした。ですが、あらためて一次情報を調べ直すと、その多くは裏付けが薄いか、正確な説明ではありませんでした。

この記事では、当時の理由づけを検証し直したうえで、実際に賃貸と持ち家の判断を分ける軸を整理します。

結論

  • 賃貸と持ち家、どちらの月々の支払いが安いかは一般化できない(比較する世帯の年収・面積の前提がそもそも違うため)
  • 「家賃には大家の利益が上乗せされている」という説明は不正確。実際の違いは「誰がどのリスクとコストを負うか」
  • 持ち家が資産として残るのは事実だが、値上がりを保証するものではない。直近5年の上昇はマンションに集中しており、地域差もある
  • 賃貸と持ち家の最大の違いは、住み替え(撤退)にかかる時間とコストの差

背景・前提整理

「大家の利益が上乗せされている」は正確な説明ではない

当時の私は、「同じ物件なら、貸し出す側の利益分がある賃貸より、自分で買うほうが安いはず」と考えていました。ですが、これは家賃の決まり方を単純化しすぎた説明です。

家賃は大家のコストに利益を上乗せして決まるわけではなく、周辺の需給で決まります。そのうえで、大家は実際に次のようなコストとリスクを引き受けています。

  • 空室リスク(入居者が決まらない期間は収入がゼロになる)
  • 原状回復費・入居者募集費用
  • 管理費・修繕費・固定資産税

持ち家であれば、これらのコストとリスクは自分自身が引き受けることになります。つまり賃貸と持ち家の差は「上乗せ利益の有無」ではなく、誰がどのリスクとコストを負うかの違いです。

月々の支払いは、そもそも比較できる数字ではない

「賃貸より持ち家のほうが月々の支払いが安い」と一般化して語られることがありますが、国土交通省の調査を見ると、比較している世帯の前提がそもそも違います。

項目 中古マンション購入世帯 民間賃貸住宅入居世帯
平均世帯年収 764万円 527万円
住宅ローン年間返済額 121.8万円(月あたり約10.2万円) ―
返済負担率(世帯年収比) 17.0% ―
入居後の面積 ― 47.0㎡(住み替え前は65.4㎡)

出典:国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」

世帯年収も住んでいる面積も異なる集団を比較しているため、「月10.2万円の返済 vs 家賃相場」のような単純な比較は成立しません。賃貸と持ち家のどちらが安いかは、一般化できないというのが正直な答えです。 自分のケースで比較したいなら、同じ物件・同じ面積で見積もりを取って確かめるしかありません。

持ち家を選んだ、実質的な理由

体験談から一般化できない理由を除くと、実際に差として残るのは次の2点と、それを上回って重要な1点です。

資産として残る。ただし値上がりを保証するものではない

賃貸は家賃を支払っても後に何も残りませんが、持ち家は売却すれば現金化できます。これ自体は事実です。

賃貸は支払っても何も残らないが、持ち家は資産として残り、売却・現金化できることを示した比較図。

国土交通省「不動産価格指数」によると、マンション(区分所有)の価格は直近5年(2020年12月→2025年12月)で+42.1%上昇しています。ただし、この上昇はマンションに集中しており、地域によっても差があります。

不動産価格指数(2025年12月・季節調整値、2010年平均=100)

マンション全国225.1
マンション名古屋圏193.1
戸建全国121.9
住宅地全国119.8

出典:国土交通省「不動産価格指数(令和7年12月分)」

2026年4月以降、算出プログラムの不具合により公表が延期されているため、2025年12月分が現時点での最新値です。2026年4月以降、算出プログラムの不具合により公表が延期されているため、2025年12月分が現時点での最新値です。

「不動産が値上がりしている」ではなく、「マンションが値上がりしている」というのが正確な言い方です。また、この指数は過去の実績であり、今後も同じペースで上がり続けると保証するものではありません。

知人には、購入価格より高く売却できた人もいます。ただし、これを「マンションは得をする」という一般論として受け取らないほうが安全です。国土交通省の調査でも、集合住宅を売却した世帯の損益は年によって大きく振れています。

年度 集合住宅を売却した世帯の損益(平均)
令和3年度 +137万円
令和4年度 −283万円
令和5年度 −1,154万円
令和6年度 +180万円
令和7年度 +923万円

出典:国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」(注文住宅を建てるために従前住宅を売却した世帯が対象で、全売主の平均ではありません)

2年で2,000万円以上振れるほど、タイミングによって結果が変わります。「持ち家は資産になる」とは言えても、「いくら残るか」は誰にも保証できません。

間取りや内装を自分の好みに変えられる

賃貸だと壁を抜いて間取りを変えることはできませんし、内装を変えるにも最終的に現状復帰させる必要があります。持ち家であれば、管理規約や建物の構造による制約の範囲内で、間取りや内装を自由に変更できます。

賃貸は間取り変更不可・現状回復が必要。持ち家は制約の範囲内で間取り・内装を自由に変更できることを示した比較図。

これは持ち家だけが持つ、揺るがないメリットです。ただし、リノベーションにかけた費用がそのまま売却価格に上乗せされるとは限りません。

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出ていく自由度が違う:撤退可能性という軸

前の項で見た「資産として残る」という話は、実は2つの異なるリスクを一緒に語っています。ひとつは価格が上がるか下がるかという資産性のリスク、もうひとつは買い手が見つかるかどうかという流動性のリスクです。不動産価格指数が示すのは前者だけで、後者は立地や価格設定、その物件を欲しいと思う人がどれだけいるかによって決まります。

賃貸と持ち家の差が最も表れるのは、この流動性の部分です。ここまでの2点よりも実は重要なのが、住み替え(撤退)にかかる時間とコストの差です。

賃貸の解約は、通知してから1〜2か月程度で完了します。一方、持ち家を手放すには買い手を見つける必要があり、数か月単位の時間がかかるうえ、次のような費用も発生します。

費用項目 内容
仲介手数料(上限) 200万円以下の部分5.5%+200万円超400万円以下の部分4.4%+400万円超の部分3.3%(税込)。例:1,000万円の物件で上限39.6万円
譲渡所得税 所有期間5年超で20.315%、5年以下で39.63%(ただし後述の特別控除あり)
抵当権抹消登記費用 登録免許税+司法書士報酬
住宅ローン一括繰上返済手数料 金融機関により異なる

出典:国土交通省「宅地建物取引業法関係」告示(令和6年7月1日施行)、国税庁タックスアンサー No.3208

このうち譲渡所得税については、居住用財産を売った場合、所有期間の長短に関わらず譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります(国税庁 No.3302)。この特例があるため、自宅マンションの売却で実際に譲渡所得税が発生するケースは限られます。「売却益に約20%課税される」と単純に考えず、この控除とセットで理解しておくといいです。

一方、賃貸の解約であれば、こうした手続きも税金もかかりません。次に住む部屋の初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)はかかりますが、持ち家の売却に比べれば規模も手続きも小さく済みます。

三軸で見る、賃貸と持ち家の違い

ここまでの内容を、このブログの判断軸(確率・損失・撤退可能性)で整理すると、次のようになります。

事象確率損失撤退可能性
マンション価格が下がる時期に売ることになる(資産性のリスク)中(時期・地域による)数百万円単位の評価差低い(売却時期はある程度選べる)
買い手がつかない・残債割れする(流動性のリスク)低〜中(立地・価格設定による)住み替えの遅れ、差額の自己負担低い(値下げか時間で対応するしかない)
賃貸のまま契約を更新し続ける高い(住み続ける限り発生)資産として残らない、更新料高い(いつでも解約できる)
持ち家を手放したくなる(転勤・ライフスタイル変化)個人差が大きい売却諸費用、時間低い(賃貸のようにすぐには動けない)

この表から分かるのは、賃貸は「損失は小さいが資産は残らない」、持ち家は「資産は残りうるが撤退のコストが高い」という、そもそも比べる軸が違う選択だということです。 どちらが優れているかではなく、自分がどちらのコストを引き受けたいかで決まります。

注意点・失敗しやすいポイント

「持ち家は資産になる」を、値上がりの保証と混同する

不動産価格指数の上昇はマンションに集中した実績値であり、地域差もあります。今後も同じペースで上がり続けるとは限りません。

知人や周囲の売却成功例を一般化する

売却損益は年によって2,000万円以上振れます。特定の誰かの事例は、自分が売るときの結果を保証しません。

「売却益に約20%課税される」と決めつける

3,000万円特別控除があるため、自宅マンションの売却で実際に譲渡所得税が発生するケースは限られます。

「家賃は捨て金」という言い方をする

賃貸は賃貸で、空室リスクや修繕義務を大家に渡す代わりの対価を払っています。どちらかが一方的に損をする関係ではありません。

まとめ

賃貸ではなく持ち家を選ぶ意味は、「得をするから」ではなく、「間取りや内装を自分の裁量で変えられる代わりに、撤退のコストを先に払っておく」という選択だと考えるほうが実態に近いです。

私自身は、もともと5年ごとに住み替えるつもりでいたため、「簡単には戻れない」というコストよりも、間取りの自由度のメリットのほうが大きいと判断しました。「今後どれくらいの頻度で住み替える可能性があるか」を軸に考えると、自分に合う判断がしやすくなります。

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